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2006年2月11日 (土)

そろばんと頭脳

 そろばんを操作することによって得られる頭脳の働きについて述べてみたい。以下、そろばんをはじく時の頭脳の働きを「そろばん脳」と呼ぶ。
 私は小学3年生から6年生までそろばんを学習し、かなりの上級まで達した。その経験から、上記のことを述べる。不思議なことに、そろばん脳はこれまでほとんど論じられてこなかった。しかし、そろばんと頭脳の一般的な関係はかなり多く論じられている。(例えば「播州そろばん」ウエブサイトでは、次のように述べられている。「そろばん演算時の指先の反復運動は左脳を鍛え、暗算は右脳を鍛える。」)
 中級程度までは、そろばんは計算道具に留まっている。しかし、かなりの上級者になると、一転してそろばんは外部記憶装置に転換する(すべての上級者が以下のようになるかは不明である)。簡単な例で、このことを述べておく。
 読み上げ算、つまり誰かが足し算の数値を順次読み上げ、それを「そろばん手(以下、そろばんをはじく者をさす)」がそろばんで計算する例を取り上げる。誰かが『123円なり、356円なり』と読み上げたとしよう。
 そろばんが計算道具に留まっている人の場合は、そろばんの上で、123円の上に356円を加えていく。その結果、479円と分かる。次に『689円なり』と聞いた場合も、そろばんの上の479円に689円を加えることになる。
 一方上級者は、まず123円とそろばんの上に置く。そして、356円という声を聞くとほとんど同時に、そろばん上の123円と356円を頭の中で計算して479円という結果を得、それをそろばんの上に置く。つまり、計算は常に暗算で行い、その結果をそろばん上に置くことになる。次に『689円なり』と聞いた場合も、そろばん上の479円と689円を暗算で計算し、その結果である1168円をそろばんの上に置く。
 このように上級者の読み上げ算は、常にそろばん上の数値と新たに聞いた数値を暗算で計算し、その結果をそろばん上に置くという操作を繰り返すのである。このためもあり、暗算で計算するということがそろばん脳の1番目の特徴となる。そして、そろばんという外部記憶装置と頭脳との連動がそろばん脳の2番目の特徴となる。後者の連動は、コンピュータ(CPUと記憶装置)の中でも行われている。
 加算や加減算では、そろばん手は上の桁から計算する。この計算方法は、筆算やコンピュータのそれとは異なっている。なお見取り暗算(足し算する数値が紙などに上から順に書かれている場合の暗算)では、部分計算(例えば3桁ごとに計算する)する場合があるが、その時は下の部分の暗算から行う。もちろん部分計算も上の桁から行う。
 もっと難しい読み上げ算の場合も、上級のそろばん手の演算方法は上記と同じである。しかし上記に加えて、そろばん手は頭脳を2つの部分に分けて使うようになる。つまり頭脳の用い方が変わってくるのである。(中級以下のそろばん手がこのような頭脳の用い方をするかどうかは不明である。)
 これも読み上げ算の例をあげて説明する。読み手が『123億5468万3468円なり、78万4888円なり、2568億3489万4566円なり、・・・』と読み上げたとする。まず、最初の123億・・・をそろばんの上に置く。前述のように、そろばんは外部記憶装置である。次の数値は、「78」と聞いた段階ではそれが「78億円」なのか、「78万円」なのか、「78円」なのかの単位が不明なので、計算できない。「78万」と聞いた段階で計算することになる。その78万・・・とそろばん上の値を暗算で計算している時に、3番目の数値2568億・・・が聞こえてくる。このように、上級者の読み上げ算では常に次のように頭脳を使うようになる。
  ① そろばん上の数値と2番目に聞いた数値を頭脳の一部で計算し、その結果をそろ
   ばん上に置きながら、聞こえてくる3番目の数値を頭脳の一部に記憶しておく。
  ② そろばん上の数値と3番目に聞いた数値を頭脳の一部で計算し、その結果をそろ
   ばん上に置きながら、聞こえてくる4番目の数値を頭脳の一部に記憶しておく。
  ・・・など。
 つまり一部の頭脳は計算を担当し、一部の頭脳は記憶を担当することになる。記憶した数値を計算するために、頭脳内でその数値をやり取りしているものと思う。このように頭脳を2つに分けて用いることがそろばん脳の3番目の特徴である。この過程は、やはりコンピュータに近い。コンピュータは入力した数値をいったんどこかに格納し、それをCPU内で計算する。
 上記のような桁数では、ほとんどの上級者は上位の桁から部分毎の暗算となる。ごく一部の上級者以外は、10桁以上の暗算をできないからである。このため、上記例の頭脳内の暗算は少しだけ煩瑣になる。
 なお上記のような大きな桁数の読み上げ算を電卓で計算する場合は、少ない桁数の場合とほとんど同じ操作でよい。そのため、電卓計算時の頭脳はそろばん脳とは大きくかけ離れている。
 頭脳を2つの部分に分けて使うという特性は、日常生活の訓練からでも得られるかもしれない。私はNHKテレビニュースを視聴する時には、通常は新聞を読みながらNHKの音声を聞いている。時々、テレビ画面に目を移すが、NHKの音声情報は100%捕捉できている。私の場合は上記のそろばん脳である。そろばん脳でない人も、上記のようなことはできると思います。それでも、そろばん脳と通常の頭脳を比較した時の音声捕捉率は前者のほうが高いと思います。
 そろばんの上級者になると、伝票の加算もある。伝票とは、文庫本を一回り小さくした紙片に5個くらいの数値が縦に併記されているものである。この伝票が複数枚綴じられている。そこから20枚くらいの伝票を用いて順次計算することになる。例えば、上から3番目に記載されている伝票の数値を20枚加算する。そのため、上級者になると各頁に記載されている6桁から7桁くらいの数値を一瞬にして読み取り、前記のような暗算を用いて計算していくことになる。一瞬にして、特定の場所に記載してある6桁から7桁程度の数値を読み取ることができるということがそろばん脳の4番目の特徴である。
 日常の生活や仕事をしていると、上記のそろばん脳の特徴のうち1番目の暗算はすぐ気が付く。また4番目の特徴である6桁から7桁程度の数値を一瞬にして読み取るということも、データの転記時やコンピュータへの入力時に気が付く。前者は他者でも気が付くが、後者は他者では気が付きにくい。
 3番目の特徴である頭脳を2分割で用いているということは本人でも、自覚しない限り、気が付きにくい。2番目の特徴である外部記憶装置と頭脳との連動も、本人がそうかと気が付くものである。
 上記で述べたそろばん脳の特徴のうち、1番目、3番目、それに4番目は日常何かと有用であるということが私には自覚できる。2番目の特徴はどのような有用性があるかは私にも分かりません。

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