« さまよえる株式市場、それに村上氏 | トップページ | 日銀の福井総裁を懲戒解雇せよ »

2006年6月10日 (土)

村上氏の逮捕、あるいはVoice罵声とExit退場

 村上氏がインサイダー取引容疑で逮捕された。彼は、逮捕前に自ら設定した記者会見で、彼の行為は単なるミステークであったと表明した。しかし、その後に検察筋から漏れてくる情報によると、彼の行為は単なるミステークを越えて「法の完全なる逸脱」であるという。村上ファンドの活動をExitとVoiceという軸で捉えると新しいことが見えてくる。
 A. O. ハーシュマンの著書Exit, Voice, Loyalty (三浦訳『組織社会の論理構造』ミネルヴァ書房、1975年)には大変興味深いことが書かれている。(もっとも、ハーシュマンの著書はどれも面白い。) 以下、この書で示されているExit(訳書では退出、ここでは退場)とVoice(訳書では告発、ここでは罵声や意見)を用いて村上ファンドの活動や株式市場を考えてみる。
 ハーシュマンによると、通常の世界では「Exit退場」と「Voice罵声・意見」が代替的に作用するという。つまり、どちらか一方のみが機能するという。そして、通常は後者が優先する。例えばソニーの液晶テレビの購入者を考えてみる。この液晶テレビに不具合が発生した場合、購入者はまず初めに販売店やソニーにその旨を口頭で伝えしかるべき措置をとるように依頼する。これがVoice(この場合、告発や意見がよい)である。適切な処置がとられれば、そこで問題は解決する。もしこの処置が購入者からみて満足がいかない場合には、次の買い替えの機会にその人はソニー製品を選ばなくなるであろう。これが退場Exit(ソニー液晶テレビ市場からの退場)である。
 液晶テレビに替えて、株式を購入する場合を考えてみる。遊休不動産や現金・預金が過剰でありながら、配当も少ない銘柄を取り上げる。例えば、村上ファンドの購入以前の阪神電鉄株である。
 一般の個人の場合は次のようになる。土地を有効に活用すればもっと業績が向上し株価も上がると思って阪神電鉄株を購入した。しかし、自分の想定したように阪神電鉄の経営陣は活動せずに、依然として阪神株価は低迷していた。この状況下で、個人株主は株主総会でそのことで経営陣に罵声Voiceを浴びせることはできない、あるいは罵声を浴びせても有効なものとはならない。それゆえに阪神の株価は以前のままで推移している。その結果、失望した個人株主のとりうる選択肢は阪神株の売却、つまり退場Exitだけとなる。
 村上ファンドなどのアクティビィストファンドの場合は次のようになる(個人でも、資金量が豊富で大量に阪神株を保持している株主も含む)。同じ状況下の株主総会では、村上氏などは経営陣の無能・無策に対して声を荒げて非難するであろう(今回の件では、村上ファンドは経営陣の更迭を提案している)。つまり経営陣に有効な罵声を浴びせることができるのである。その結果として、経営陣は配当金を増額するなど株価が上昇する何らかの方策を実行せざるを得なくなる。株価が上昇したところで、彼らは退場、つまり株式売却となる。
 両者の間では、株主総会で経営陣に対して有効な罵声を浴びせられるかどうかが決定的に異なっている。その結果として、個人株主は株価上昇という果実を入手できないのに対して、村上ファンドなどは株価上昇という果実を入手できるのである。端的にいえば活用できる資金量の違いで、Voiceが有効に機能したり、機能しなくなるのである。
 このような不公平は経済の常態なのである。経済活動というものは「金権的・金持ち優遇的plutocratic」に働き、決して「民主的democratic」には働かないのである。それでも、株式市場で個人株主のVoiceを有効に機能させる方策はある。簡単にその一例を述べておく。
 NPOのような何らかの組織、例えば「投資家の声」という組織を立ち上げたとしよう。この組織に対して、個人株主は株主総会の議決権を委託するのである。もし多くの個人株主の意向が一致し、その議決権の数が多数となれば、「投資家の声」の株主総会におけるVoiceは有効なものとなろう。個人株主は団結すれば、そのVoiceを有効なものとすることができるのである。(ただし、その実現はかなり難しいであろう。)
 最近では、企業が個人株主を大事にする風潮が強まっている。個人株主を大事にする方策は配当や株主優待だけではない。個人株主のVoice(この場合は、罵声というよりも意見)を積極的に汲み取り、それに的確に対応することも有効な方策である。
 東証も個人株主を増大させようとするならば、個人株主の個々の企業に対するVoice(意見)を収集する部門を立ち上げることが必要であろう。この部門は、それらのVoiceを集約して該当企業に伝えるという役割を担う。もちろん、集約されたVoiceに対する企業の反応などは東証が公表する。
 私の意見では、インターネット社会では「Voiceの収集とそれへの対応」がより重要度を増してくるであろう。小泉内閣メールマガジンは、この面でかなりの先進性を持ったものと評価できる。(国民は、日本国民であることを放棄すること、つまり日本国民から退場できない。このような状況下では、ハーシュマンはVoiceがより重要になるといっている。)

|

« さまよえる株式市場、それに村上氏 | トップページ | 日銀の福井総裁を懲戒解雇せよ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/110055/10464253

この記事へのトラックバック一覧です: 村上氏の逮捕、あるいはVoice罵声とExit退場:

« さまよえる株式市場、それに村上氏 | トップページ | 日銀の福井総裁を懲戒解雇せよ »