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2011年4月23日 (土)

サプライチェーンと信頼性の計算

 東日本大震災ではサプライチェーンの切断が大きくクローズアップされた。そして、ジャスト・イン・タイムの在庫管理も問題があると指摘された。ある大手メーカは、中越地震の経験から、特定部品の下請け会社を2系列にしたという。ところが、その2つの系列の下請け会社のサプライチェーンのどこかで同一の会社(Z社)が組み込まれており、そのZ社が被災したために2系列からの部材・部品の供給がストップしたという。
 これらの実態を考えるとサプライチェーンの信頼性(reliability)を高めること、そのための信頼性の計算ということが浮かび上がってくる。信頼性の計算には、チエーンが単線(直列)か複線(並列)かということの識別が必要であり、これを高めるためには出来るだけ複線化することが重要となる。そこで、この点を簡単な例を用いて説明しておこう。
 ここでの例は、大手の会社に1系列と2系列の下請けが存在し、その下請けに孫請けが存在している場合を想定する。そして、それらの会社や系列などが必要な規格の部品・部際などを供給できる可能性を信頼性と呼ぶことにする。この信頼性には地震や台風などの自然災害も加味しておく。個々の会社の信頼性が100%とは、何時でもその部品・部材などがその会社から供給できることをいう。大手会社全体の信頼性100%とはどれかの系列から常に部品・部材などが供給できることをいう(供給量の問題は無視する)。以下、信頼性はカッコ内に記述する。比較のため、孫請け会社の信頼性はいずれも同じとする。また一部の信頼性の詳細な計算方法などは省略するので、これについては「信頼性工学」などのテキストを参照されたい。数値は四捨五入している。
 まず1系列しかない場合。
① 下請けのA社(90%)、それと孫請けC社(80%)の場合。
 この系列全体の信頼性、つまり親会社が部品などを入手できる信頼性は0.90×0.80=72%となる。
 次に2系列からなる場合
② 下請けのA社(90%)、B社(85%)、それと共通の孫請けC社(80%)の場合。
 AとB系列を合わせた信頼性は(1-(1-0.90)×(1-0.85))×0.80=78.8%となる。2系列でも孫請けが共通だと信頼性は①よりも若干向上するに過ぎない。
③ 下請けのA社(90%)、その孫請けがD社(80%)とB社(85%)、その孫請けがE社(80%)の独立の2系列の場合(計算式は省略)。
 A系列の信頼性は72.0%、B系列の信頼性は68.0%、それらを合わせた全体の信頼性は91.0%となる。②に比べて、③のように系列を完全に複線化すると信頼性は大きく向上する。
④ ③において、それぞれの孫請けD社とE社のいずれもが下請けのA社とB社とで利用できる場合(計算式は省略)。
 A系列とB系列を合わせた全体の信頼性は94.6%となる。2つの系列を複線化すると、さらに信頼性が向上する。
・・・・・・・・・・
 以上の例から、サプライチェーンを複線化することの利点が分かろう。そして、信頼性の低いところ、この例では孫請けを複線化することの重要性も分かろう。さらにいうならば、信頼性の低いところに在庫を持たせると信頼性が向上することも推察できよう(上記の例の信頼性の評価に、それぞれの会社の在庫日数も含めればよい)。
 私の知る限りでは、信頼性工学やそれに基づくシステムの設計はアメリカのアポロ計画で大きく前進した。そのハイライトは人類の月面到着・地球への帰還であった。この遺産は利用できるのである。サプライチェーンは1つのシステムであるから、その設計に信頼性工学を取り入れられるはずである。
 信頼性工学を取り入れたサプライチェーンの設計の手順は概ね次のようになろう。まず、既存のそれらの個々の信頼性に基づいて全体の信頼性を計算する。次に、信頼性の脆弱のところに在庫や複線化での対応を検討し、それら全体の信頼性を計算する。このような信頼性の計算⇒システムの再設計⇒信頼性の計算⇒システムの再設計という手順の繰り返しによって、望ましいシステムを作り上げるのである。

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2011年4月 4日 (月)

情報通信白書と知的怠慢

 総務省『情報通信白書』平成22年版やそれ以前のものを読んでいると幾つかの納得できない数値に出会う。そこで多用されている『情報通信産業連関表』(以下、情報IOと呼ぶ)の値がとくにおかしい。例えば2008年表のパーソナルコンピュータの国内生産額は1,000,782である。以下、金額の単位はすべて百万円で、生産者価格表からの値である。この経済産業省『工業統計表、品目編』の値(全数調査値)は1,266,372となる。企業のICT(情報通信技術)化の根幹を成すパソコンの数値でこのように大きな乖離が生じているのである。
 このような点を、さまざまな統計と産業連関表に詳しい友人に確認してみた。友人いわく。『情報通信白書の数字はデタラメに近い。「情報通信白書」ではなく「情報通信改ざん白書」と呼んだ方が適切である。』そして、情報IOのいかがわしい数値を具体的に教えてくれた。以下は、それを参考にしたコンピュータの正誤対応の一端である。「正」は総務省『平成17年(2005年) 産業連関表』平成21年3月からの値(以下、省庁共同IOと呼ぶ)であり、「誤」は情報IOの2005年表からの値である。省庁共同IOは5年毎に作成されており、これ以前の平成12年表も作成されている。情報IOはこの平成12年表などに準拠して作成されているという。(なお、友人が指摘したラジオ・テレビ受信機も正誤の開きが極めて大きいが、ここでは省略する。)
 ◎パーソナルコンピュータ
   輸出額・・・・正は507,889にたいして、誤は217,669
   輸入額・・・・正は1,062,458に対して、誤は740,864
     国内需要・・・正は1,851,213に対して、誤は1,715,487
     内、中間需要・正は68,341に対して、誤は117,977
 ◎電子計算機本体(パーソナルコンピュータを除く)
   輸出額・・・・正は158,121に対して、誤は34,868
   輸入額・・・・正は772,511に対して、誤は1,034,900
     国内需要・・・正は985,766に対して、誤は1,371,756
     内、中間需要・正は35,532に対して、誤は51,932
 上記の輸出と輸入の値は「正」は財務省『日本貿易月表』から得られており、「誤」も同表から得られているはずである。もちろん品目の定義も同じはずである。ついでにいうと、パソコンとその他の電算機の和となる2つの品目合計の輸出と輸入も「正」と「誤」では異なる。
 情報化社会で最も重要と思われるパソコンとその他のコンピュータの数字でこれだけ大きな差が生じているのである。どうして、こんなに大きな差に総務省・情報通信担当部局は気が付かないのであろうか。産業連関表の性質を考えると、情報IOに示されている各産業部門のコンピュータの投入額・投資額はシャチャカ・メッチャカになっているはずである。そして、シャチャカ・メッチャカを延長している情報IOの2006年表、2007年表、2008年表も当然ながらそれを引き継いでいる。だから、初めに述べたバソコンの国内生産額の違いも生まれているのである。もちろん、そのシャチャカな数字を用いた『情報通信白書』の分析もいい加減なものとならざるを得ない。
 情報IOは省庁共同IOよりも早期に推計されているということを斟酌する必要があるかもしれない。それでも、後者の報告書の発刊は平成21年3月である。この速報は平成20年8月に刊行されている。前述した『情報通信白書』平成22年版は平成22年7月の発刊となっているから、白書担当者は省庁共同IOの数字と自分たちのいい加減な情報IOを比較できたはずである。もし、この比較をしなかったとしたら、彼ら・彼女らは知的怠慢であったといわざるを得ない。友人いわく。『総務省・情報通信担当部局は自分たちの都合のよい数字を使いたいがために、省庁共同IOを無視したのではないか。不都合な真実を隠すために、自分たちでいい加減な情報IOを作成しているのではないか。』
 情報通信産業の盛衰やそれがもたらす変革は、今後のわが国の行方に大きな影響を及ぼす。例えばOECDやILOのホームペイジには多くのICT分析論文が掲載されている。この大事な情報通信産業の推計や分析を総務省・情報通信担当部局に任せておいてよいのだろうか。自分たちに都合のよいように数字を改ざんしている人たちには任せてはいけないはずである。
 現在、発行される白書の中では『情報通信白書』が一番多くの人たちの興味を引いているのではないか。そして、この白書の数字や分析を鵜呑みにしている人も多いはずである。国、あるいは総務省という権威を盾に、いい加減な数字や分析を撒き散らす『情報通信白書』の存在・発行を許しておいていいのだろうか。私は、総務省・情報通信担当部局に『情報通信白書』の廃刊や、過去の白書の「誤りの謝罪」を要求したい。

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