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2013年1月10日 (木)

GDP統計は正確か

 我が国の喫緊の課題は景気・経済の回復である。そのためには、GDPや経済統計が正確でなければならない。ところが、多くの工業製品・加工食品などの生産額や国内需要額が二重に計上されていたり、一部の事業所の数値が脱漏している可能性が高い。情報通信機器については、当ブログ2011年4月4日「情報通信白書と知的怠慢」を参照されたい。GDP統計がコモフロー法(個々の財の生産や需要から推計する方法)で推計されているならば、それらの数値も怪しい。以下、二重計上の根拠などを説明する。
 簡単な例から説明する。国内の家電メーカーが、国外の子会社で汎用品(比較的安価で低所得層向けに開発された製品)を生産し、それを国内で販売する場合を考えよう。台湾メーカーにOEM生産を委託する場合もほとんど同じ構造である。
  この汎用品は輸入されるから、輸入に計上される。これが家電メーカーの国内工場に搬入され、若干の手を加えて国内向けに出荷される時には出荷額に計上される。国内需要は国内生産から輸出を差し引き、それに輸入を加えたものである。後述の工業統計を用いる場合は、この出荷額が生産額として代用される。そうすると、この汎用品の国内需要額には輸入額に加えて、国内生産額も計上されていることになる。工業統計の出荷額が問題となる。この点は、後述も参照。実は、経済産業省ではこのような問題に気付いているようである。以下の論述には、席亭の推察も含んでいるということを明言しておく。
 私は、情報通信機器などの国内生産・需要の比較的正しいと思われる数値について総務省『産業連関表』2005年(以下、連関表)で調べた。推計は経済産業省の担当である。最も驚くことは、連関表で明記されている資料名とそのコードが実際に用いられているそれと異なることであった。国内生産は経済産業省『工業統計表』品目編を利用し、そのコード番号も明記していながら、実際の値は同『機械統計』の値を利用している。輸出入は財務省『日本貿易月表』を利用しているが、一部でコード番号が明記されていないコードの値を加減している。工業統計の調査対象は、連関表推計年では全数調査(全事業所調査)であるのに対して、機械統計の民生用電気機械の調査対象は「常用従業者50人以上の事業所」である。こんな差異や輸出入の加減などから、私は経済産業省が比較的正しい国内生産・需要を推計しようとしていると推察した。さらに、同省は各年毎に推計している『簡易延長産業連関表』で2005年連関表の細分類ベースの品目別最終需要などを把握しているが、これも前記の推察と符合しているようである。
 経済産業省は国内需要をメーカーや業界団体などへのヒヤリングからかなり正確に推測しているようである。そして国内生産は同省の『機械統計』の数字をそのまま使っているので、輸出入で調整しなければならなくなる。もし輸出入の調整がなければ、従業者50人未満(業種により、この規模が異なる)の事業所の生産額が国内需要から脱漏することになる。
 上記の説明を理解するためには、機械統計の仕組みについての知識が必要となる。この仕組みについて説明する。最近の機械統計はつじつまの合っている数値が計上されているので、具体的な値も示す。
 機械統計には「受入」と出荷の内訳として「販売」と「その他」がある。受入は、他企業から購入したり輸入したものや同一企業の他工場から受入れたものなどからなる。だから、海外工場やOEM生産されたものは受入に計上される。出荷のその他は、他企業や同一企業の他工場などへ出荷したものである。この受入とその他は数量のみが把握されている。
 例えば、あるX企業が原動機付き第2種二輪車をOEMで生産し、それをY企業へ出荷し、Y企業はそれに手を加えて販売した場合を考えよう。
   X企業では、生産とその他に計上される。
   Y企業では受入と販売に計上される。
これらより、この二輪車は生産と販売に一回しか計上されないから二重計上はない。だから、概念上は生産と受入の合計から販売とその他の合計を差し引いた値は在庫増減に等しくなる。
 この原付第2種の機械統計の値は次のようになっている。値は平成23年で、在庫増減は対前年比較である。
◎原動機付き第2種二輪車の数量、単位は台
  生産=64,507、受入=105,635、計=170,142(A)
  販売=141,565、その他=34,878、計=176,443(B)
  在庫増減=△6,294(A-Bは△6,301)
 もう1つの製品の平成23年の例も示しておく。
◎電子レンジの数量、単位は台
  生産=206,317、受入=3,215,171、計=3,421,488(A)
  販売=3,453,078、その他=15,792、計=3,468,870(B)
  在庫増減=△50,113(A-Bは△47,382)
 本論に戻ると、機械統計などの「生産動態統計調査」の対象製品・品目では生産を用いると、上記のような二重計上の問題が生じないはずである。工業統計の品目編では、特定年次では全数調査となるが、生産額ではなく出荷額が調査されている。この出荷額を生産額の代用として用いざるを得ない製品・品目はかなり多い。たとえば『農林水産省統計表』に再掲されている菓子類や飲料類などである。出荷額を用いる場合は、前記の二重計上の問題が生ずる。
 機械統計の生産額と工業統計品目編の出荷額の比較も示しておこう。値は平成22年で、単位は百万円である。後者の対象は従業者4人以上である。Cは機械統計の生産額であり、Dは工業統計の出荷額である。
◎電子レンジの金額
  C=16,873        、D=61,692
◎電気冷蔵庫の金額
  C=272,689       、D=338,698
これらのCとDの差額が、工業統計の出荷額を生産額の代用として用いた際の二重計上となる。
 なお、機械統計などの「生産動態統計調査」にも問題がある。最大の問題は調査対象である。比較的小規模の事業所の生産額は無視されることになる。これは、何らかの方法で補正できるはずである。さらに、これよりも小さな問題や疑問が残る。
 最初の問題・疑問。受入れた後、その企業が何等の手も加えずにそのまま出荷する場合はまれではないだろうか。例えば国外工場から受け入れた場合、検品や日本語表記資料の添付、あるいは付加的な加工などを行うであろう。その際に生ずる付加価値の処理である。この付加価値部分は生産額に計上されていないようである。具体的にジャムで説明しよう。ジャムを大きな容器で輸入し、それを瓶詰にして家庭用に販売する場合である。このように大きな容器で輸入して、小さな容器で販売するケースは多い。これらの過程は生産である。
 2つ目の問題・疑問。「生産動態統計調査」の対象製品・品目では、すべてで受入・その他が調査されていないようである。受入れ・その他が調査されていない事業所が生産と出荷の定義を正しく理解しているのであろうか。
 我が国では多くの製品・品目の生産を国外に依存している。それらを国内に持ってきて販売する際に、商業者がこれを行う場合と工業者がこれを行う場合に大別される。前者の場合は二重計上の問題は生じないとみなせる(ただし、製造業とみなせる自社の子会社や関係会社に若干の加工をゆだねる場合は後者とみなす)が、後者の場合に前述のような二重計上の問題が生じえる。
 GDP統計に対する疑念を整理すると以下のようになる。まず、比較的多くの製品・品目で二重計上の問題があるのではないかという点である。この二重計上を回避するために機械統計などの生産動態統計を用いる場合は、調査対象が比較的大きな事業所に限られることによる統計の脱漏がある。

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