2005年11月 1日 (火)

戦略としての必要多様度

 今、国内・国外ともに大きな環境変化にみまわれつつある。国内では、少子高齢化や財政赤字の拡大などの問題がある。国外では、資源(石油、石炭、鉄鉱石など)価格の暴騰、地球温暖化、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の台頭などがある。このような将来の環境変化を前にした時に、企業ばかりでなく、個人としてもそれへの対応策を持つことが必要である。ここでは、対応策を幾つ持つことが必要なのかという点を考えてみたい。
 環境変化の種類・数などを多様度とみなす。例えば特定の個人の将来環境の変化で重要なものとして、金利の上昇、消費税の引き上げ、所得の上昇率の低下などが考えられるとしたら、多様度は3である。特定の企業の将来環境の変化で重要なものとして、エネルギー価格の上昇、中国の競争力の増大、熟練技術者の退職増、国内需要の逓減などが考えられるとしたら、多様度は4である。このような将来起こりうる環境変化の多様度に対応するためには、あるいは打ち勝つためには、個人・企業としても自己のうちに多様度を持たなければならない。どの程度の数の多様度を持たなければないないかは「必要多様度の法則」から判断できる。
 簡単な例として、「後だしジャンケン」をとりあげる。相手が先にグー、パー、チョキのいずれかを出したのをみてから、自分の手を出すのである。もちろん、ジャンケンの勝負に勝つことが目標である。相手はいずれの手も出せるものとする、つまり多様度は3である。
 ここで、自分の出す手の数が限られているものとする。自分の多様度が1の場合は、グー、パー、チョキのいずれか、例えばグーしか出せない。この時、勝つことが目標であっても、勝負の結果は「勝ち」、「負け」、「引き分け」のいずれかとなる。つまり、結果の多様度は3となる。
 自分の多様度が2となる場合、例えばグーとパーを出せるとする。この勝負では,「負け」はなくなり、「勝ち」か「引き分け」となる。結果の多様度は2となる。
 自分の多様度が3となる場合はどうであろうか。相手の手を見て、グー、パー、チョキのいずれでも出せるのである。この勝負では、常に「勝ち」となる。結果の多様度は1となる。
 上記の例から分かるように、「後だしジャンケン」で常に勝ち続けるためには、自分の多様度を増加させておかなければならない。
 この多様度に関する重要な関係はW.R.アシュビーが「必要多様度の法則」として『サイバネティクス入門』篠崎他訳、宇野書店、1967年の中で述べている。(この原書は1956年に発行されているので、来年は50年目に当たる。なお、アシュビーの書としては『頭脳への設計』山田他訳、宇野書店、1967年が有名であり、両書ともに格段に面白いし、今でも輝きを失っていない。) 簡単に、この法則を述べておく。相手、あるいは環境の多様度をAとし、自分の持つ多様度をBとし、結果の多様度をCとする。この時、下記の不等式が成り立つ。(アシュビーの法則は、下記とは別の表現となっている。)
   法則・・・Cの多様度は「A÷B」より小さくはならない
この法則を上記のジャンケンの例で確かめてみてください。
 将来の環境変化のうちで、自己や当該企業に重要な影響を及ぼしそうなものはある程度の確かさらしさを持って予測できるであろう。つまり、将来の環境変化の多様度は事前に判明している場合が多いのである。(この場合、その環境変化が実際に起こりうる確率は無視してよい。あえていえば、ある数値以上、例えば20%以上であれば考慮することにすればよい。) つまり、上記の「後だしジャンケン」のような状況にあるのである。それゆえに、必要多様度の法則は重要なのである。
 もっと一般的にいうと、不確定で変化の多い未来を迎えるにあたっては、われわれは自己のうちに多くの多様度を準備しておかなければならないのである。アシュビーの言葉を引用すれば、「多様度だけが多様度を破壊できるのである」。
 株式市場におけるポートフォリオの考え方も、この法則と関係付けると面白いだろう。将来の株式環境の変化を多様度で把握すれば、自分が持たなければならない多様度はすぐに分かるであろう。その後どうするかという問題が、前記とは異なって、追加される。その後は「後だしジャンケン」でなく、同時に手を出す通常のジャンケンとなるが、相手の出す手の統計的割合は既知となっている場合である。(相手の出す手の割合が一定していない場合や知らない場合はポートフォリオが考えられない。) これについては、別の機会に述べようと思う。

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